昔、クリス・コナーというジャズシンガーがいました。

ハスキーで、真っ直ぐな勢いあるトランペットボイス。

とあるライブのレコーディング中、バラードを歌っていた彼女は、突然高音でシャウトしました。

「ここの歌詞、忘れたわ・・・」

I forgot the lyric for this tune…..

 

歌詞がぶっ飛んだんです。録音中、それも観客の目の前で。

逃げ場はない。どうしようと考える前に体が反応してこう出てしまったんでしょう。

デタラメ歌詞で叫んだあと、彼女はつぶやきました。

「続けといて」Keep going

バックミュージシャンに指示を出したわけです。

あたしは歌えないけど演奏は止めないでって。

ツワモノですね。

そして、ちょうど曲のサビのところにきた。彼女、歌詞が頭に戻ってきたらしくケロッと歌い始めました。

この様子、今でも聴けます。即興でシャウトした部分もちゃ〜んと曲になっている。よくぞ歌詞を忘れてくれた!生で観ていたお客さん、なんてラッキーなんでしょう。

 

*歌手名 Chris Conner

*曲名 “Black Coffee“

*写真は当時のレコードジャケット

 

お聴きになる際は、一旦この記事を忘れてくださいね。ネタバレしてごめんなさい。

 

さて、音楽というものゴールは何か。

演者も聴く側も一緒になって音で楽しむことでしょう。

ミュージシャンが上手に綺麗にきっちり演奏し終えるなんてことは、ゴールではない。

クラシック音楽だったらこうはいきませんね。間違えたり歌詞を変えることは許されないでしょうから。

ハプニングさえも音楽の一部になる。これはジャズの魅力の一つです。

歌詞が飛んだ、忘れた、そうしたらまさに即興で対応可。待ってましたとその場から創り出せばいい。そこがおもしろいんです。

 

スピーチのゴールはなんでしょう。

話し手も聴く側も、一緒になって話を楽しむこと。

スピーカーが上手に綺麗にきっちり話し終えることがゴールではない。それじゃ聞く人の心は動かない。よかっですねちゃんと話せましたね、拍手、になってしまう。

ハプニングさえもスピーチの一部。

言葉が飛んだ、一瞬真っ白になった、そうしたらその場から出て来る言葉で話す。

ライブのコミュニケーションは楽しまないと。

 

そもそも言葉を紡いでコミュニケーションすること自体が、即興です。

ジャズはとってもスピーチに近い音楽です。