訥々(とつとつ)とした地味なスピーチ、なにが心を動かすのか。

★極意

こんにちは、森裕喜子でございます。

これまで数多くのスピーチを聞きましたが、最も心に残っているのは、とつとつと語られたものでした。地味なスピーチでしたが、忘れられない時間でした。

 

某授賞式のスピーチ

それは
毎年行われている、
食の業界の授賞式でした。

会場には200名ほどの食業界の方達が揃っており、
その年の受賞者がステージのスクリーンに映し出されました。

軽トラックに乗った作業着の男性でした。

お辞儀に全てが表れていた

受賞者の名前が呼ばれると、
会場から、
1人の男性が
舞台へ歩み出ました。

ツイードのような
茶色いジャケットの小さい背中。

舞台に上がる手前で一旦
立ち止まり、
舞台にかかった賞の名前を
じっと見上げ、
ゆっくり一礼しました。

この時点で、もう、どんなスピーチをされるのか
想像がつきました。

全身から滲み出るもの

階段を静かに昇って
マイクの前に立つと、
それは濃い茶色に焼け、
深い皺がいっぱい刻まれた顔でした。

先ほど写し出された
軽トラの写真と、
同じ表情でした。

スタンドマイクの後ろに直立、
しばらく黙ったまま、
会場の聴衆を見据えていました。

そして
ポツリと、
けれども、地に足のついた声で
話し始めました。

スピーチ内容をメモしていませんので、
記憶のままに、
書いてみます。

わたしは牛を育てる仕事を、ずっとやっています
わたしの育てる牛は市場の人気と逆行していますが、やり続けています

地元の農家はみんな非常に苦しい状況で、将来の見通しも明るくありません
牛の世話は毎日毎日大変なことの繰り返しですが、それでも毎日を大切に、一頭一頭育てて生きています

 

まっすぐな背中と目線。
一切飾りがない言葉。
慌てもせず、焦りもせず、淡々と一文を短く、きっちりと語尾を言い切った話。

清くて飾りのない言葉と姿でした。

茶色いジャケット姿でしたが、
毎日、軽トラで作業着で働いている姿が目に浮かびました。

その人が今日、
東京の瀟洒な会場で、
200名に向けて、
金屏風の前に立って話している。

ただそれだけです。

しかし
集まったみなさんは
涙を流して聞いていました。

この男性が日々を淡々と、それも長いこと、
いろいろな思いを踏みしめながら
生き続けていることを感じ取って、
自然と涙が出たのでしょう。

話の向こうに、その人が見える、人生が見える。
だから、聞き手は心が動く。

 

うまく話しても、何も伝わらない

よくある見方ですと、
ただ淡々と話しただけのスピーチです。

しかし、これほどまでに
何かを伝えることができるのは、
一体何が違うのでしょうか。

「上手なスピーチ」という言葉ほど
虚無なものはありません。

話し方は生き方だ、とずっと思っておりますが、
この方のスピーチほど、
それを体現したものはありませんでした。

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森 裕喜子

森 裕喜子

トップリーダー、トップアスリートのスピーチプレゼン戦略 VIC/伝える力でマーケティングする。スパルタトレーニングとコンサルティングをしております。

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