これまで数多くのスピーチを聞きましたが、最も心に残っているのは「上手なスピーチ」ではありません。
2016年のある日。
200名くらいの食業界関連の方達が揃った、とある賞の授与式。
軽トラックに乗った作業着の男性の写真がスクリーンに映りました。
九州で牛を育てている生産者の方が受賞されたのです。
お名前が呼ばれると、ツイードのような茶色いジャケットを着た小柄な男性が舞台の方へ歩み出ました。
男性は舞台に上がる手前でぴしっと立ち止まり、舞台上の金屏風と、その上に掛かっている賞の名前の看板をじっと見上げ、ゆっくり一礼しました。
階段を静かに上がり、静かにマイクの前に立ちました。
濃い茶色に焼けた顔です。先ほどの軽トラの写真の男性でした。
スタンドマイクの後ろに直立した表情には、深く強いシワがたくさんありました。
黙ったまま、会場の聴衆をしばらく見て、ポツリと話し始めました。
わたしは牛を育てる仕事を、ずっとやっています
わたしの育てる牛は市場の人気と逆行しているのですが、やり続けています
地元の農家はみんな非常に苦しい状況で、将来の見通しも明るくありません
牛の世話は毎日毎日大変なことの繰り返しですが、それでも毎日を大切に、一頭一頭育てて生きています
まっすぐな背中と目線で、淡々と話す。
一切の飾りがない言葉。
毎日軽トラで作業着を着て生きているその人が、今日、東京の瀟洒な会場で、金屏風の前に立って話している。
ただ、それだけのことが会場で起きているのですが、集まったみなさんは涙を出して聞いていました。
このスピーチで語られたのは、受賞に対する上手な話ではなく、この男性の人生でした。
流暢に上手に話すスピーチは立て板に水。
すーっと流れて何も残しません。
そういうスピーチはパッと見がすごくても、記憶に残っていない。
話の向こうに、その人が見える、人生が見える。
だから、聞き手は心が動く。
上手に話して評価を得ることと、人を動かす力がある話かどうかは別次元。
うまく話しても、何も伝わらないのです。
「上手なスピーチ」という言葉ほど、虚無なものはないと思います。
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